第5回尼崎禁煙市民フォーラム(第546号 平成27年6月1日)
2015/06/01(月)
(第546号 平成27年6月1日)
地域保健担当理事 合志 明彦
第5回尼崎禁煙市民フォーラムが平成27年5月23日14時より、ハーティホールで開催されました。座談会座長で地域保健委員会委員長の長谷川吉昭先生、講演座長の同委員会副委員長 近藤貴志先生をはじめ、委員会の先生方が1年間知恵を絞って考えた「ちょっと、やめてみませんか?そのタバコ」~あなたとあなたの大事な人のために吸いたい気持ちがすっきり消える禁煙法教えます!~ というタイトルでフォーラムが行われました。以前に比べると喫煙による健康被害は認知されるようになりましたが、少しでもタバコをやめようと思った方のお手伝いを主眼に、看護学校の学生さんには禁煙が困難である仕組み、それを利用した禁煙法を知っていただく事も目的でした。
新しい切り口からの「リセット禁煙」でご高名な、予防医療研究所代表で呼吸器科専門医、依存症もご専門の磯村 毅先生の「脳から見た依存症と禁煙」というご講演と、実際に禁煙に成功された地域保健委員会の鄒天祥先生と御講演の磯村先生に加わっていただき長谷川先生の舵取りで、座談会が行われました。
黒田佳治会長のご挨拶では、喫煙による健康被害を減らすには子供の時から吸わせない事が大事で、その教育の大事さを強調されました。尼崎市の清水昌好医務監からは、子育て世代の喫煙率が45%にも達しており、これが子供に与える影響を憂いておられました。おふた方のご挨拶の中にもここ尼崎が抱える問題点が見えました。
【磯村先生の講演】
自身や家族の健康被害、喫煙にかかる費用や医療費などを訴えても禁煙できる方はそんなに多くありません。吸いたい欲求を抑えるのは難しく、薬剤療法でも成功率は30%です。喫煙者はタバコをイライラや不安を解消する道具と考えがちですが、これは喫煙によるニコチン供給が無くなるために起こる症状でです。こうした仕組みに「気づく」ことを利用した禁煙法が「リセット禁煙」です。タバコを吸ってから時間が経つとドーパミン産生に関与するニコチンが不足し、そのドーパミン不足がイライラ不安を作り、それを再びタバコによるニコチン吸引でドーパミンを産生して解消するという悪循環が起こる事実に気づく事が重要なのです。ニコチン不足による喫煙衝動持続は2~3分程度で、すぐに消えてしまう事が予測できるので衝動に耐えられるのです。
タバコに含まれるニコチンは、ドーパミン神経を刺激しドーパミンを強制的に産生します。ドーパミンは幸福感をもたらす脳内物質ですが、喫煙を続けるとドーパミン神経が弱わり、通常の生活の中で産生されるドーパミン量が減少し、癒しの脳波であるα波も減少します。やがて、タバコでニコチンが供給される間だけが気分の安定する時間になるのです。食後の一服は、ドーパミンが足らないので食事のあとの幸せが味わえず、タバコでニコチンを補給する行動なのです。なにかを成し遂げて達成感がある場面でも、ドーパミンが出ないのでまた吸いたくなり、皆が喜びを分かち合っている空間から離脱して、一人寂しくタバコを吸ってニコチンを供給しドーパミン産生をせねばならないのです。ストレスに弱くなる、楽しくない、寂しくなる事があると、そこから抜け出すための幸福感を得る目的で再び吸ってしまいます。昔タバコを吸い始める前の時代にそんな不安定な気分はあったでしょうか?喫煙が唯一出来る事は、ニコチンが切れた時のストレスをニコチン補給で解消する事です。これは悪循環以外の何物でもありません。この仕組みが理解できてしまうと、禁煙成功間近なのです。
自転車の乗り方を覚えると一生忘れないと言われますが、タバコも同じで、タバコを吸うとドーパミンが出て幸福感を得て、タバコがうまいと感じる回路が出来てしまうのだそうです。一度出来上がると生涯残り、一本のもらいタバコで回路が再活性し、再び喫煙者になってしまいます。
リセット禁煙の考え方はその他の依存症にも応用でき、共通する心のトリックを解き明かしてアルコール、薬物、カルト宗教、ゲーム、ギャンブル、ネットなどの依存にも有効です。アルコール依存であれば、眠気を誘うための寝る前の酒は睡眠の後半を障害する効果があり、夜半に目が覚めてしまいます。そのため睡眠のリズムが狂い、次の日眠れず再び寝る前の酒に繋がるという悪循環に陥るのです。アルコール依存ではありませんが、悩みはランチで聞けという話もありました。夜の酒席で悩みの相談をしてはいけないそうです。アルコールは最初気分をリラックスさせますが、しばらくすると気分を落ち込ませる作用を持つため、アルコールの睡眠障害作用で明け方に目が覚めた時には、相談前より悩みが深くなる事もあるそうです。
学力テストなどで、同じ成績を収める喫煙者と非喫煙者、どちらの伸び代が大きいかという質問の答えは、ご本人の気づきがあれば、喫煙による症状が無くなるであろう喫煙者の伸び代が大きいという事になります。喫煙者に対する適切な支援、褒め方が必要であるという例です。
磯村先生の著書について、「リセット禁煙の勧め」アマゾンなどで僅か514円、ご一読を!。また、表紙に禁煙の文字がある本は敬遠されるそうです。そのような向きには種々な依存症の共通構造を解説する「二重洗脳」という本がお勧めです。(私も今この本を読んでおります。)
【座談会】
恐ろしい話や画像で説明される禁煙治療ですが、喫煙者自身が損をしているという「気づき」も重要であり、そこに誘導する方法が大事、という長谷川先生のお話で座談会ははじまりました。
喫煙のきっかけですが、昔は興味本位、周りが吸っていて疑問を感じずに喫煙をはじめました。しかし、今は喫煙の有害性は誰もが知っており、周りが吸っているからという時代ではなくなり、禁止薬物に手を出す感覚に近いものもあるそうです。会場からは、一酸化炭素濃度測定の結果がきっかけになったとのお話もありました。世代により喫煙のきっかけも異なるようで、それぞれへの対応が必要です。
また、禁煙のきっかけも強い動機(思い)が必要です。息子に「タバコ吸ってると孫を抱っこさせへんで」と言われて、お孫さん可愛さが禁煙への動機付けとなったおじいさまや、臭いが付か無いように十分気を配っているはずなのに奥様やお嬢様の「パパ臭い!」の言葉に反発したお父さんがこれにあてはまるのでしょう。
「本数を減らす」禁煙法では、かえって止められなくなるそうです。本数が減ると余計楽しみになり更に深く吸引して、脳の回復が遅れるそうです。
禁煙の動機を「やる気スイッチ」が入ったと表現され、壇上で本音で語る事を快く引き受けていただいた鄒先生に大感謝!です。喫煙歴のない人だけのお話より随分と現実味が出ました。
磯村先生によると、一度禁煙に成功された方対象の調査で、喫煙自体が病気で、タバコにストレス解消機能が無いと答えられた方は、喫煙を再開しにくいというデータがあるそうで、これこそ「気づき」の真髄というものでしょう。
ご本人さんとの治療・面談では、禁煙して欲しい事が本気である事が伝わっているか?本人の中での迷いを整理する話術、面接で強い動機付けへ持って行くスキル、気づきを確信させるスキルが必要だとういことでした。
大腸癌治療中で喫煙による咳き込みを繰り返しておられるという一般参加の方より、私のようなヘビースモーカーがタバコを止められるか?という質問がありました。壇上の先生方から、いろいろなあたたかいアドバイスがありましたが「自分の事なら諦めて終わりですが、他に何か大事な事を見つけられるか?例えば家族や周りの人が大事だと思う事、強い動機を設定する事が重要です。」とのお答えがあり、フォーラム終了後も演者と質問者が笑顔で言葉を交わしておらました。この光景、禁煙フォーラム冥利に尽きるというものです。来年もまたやりましょうか!
【アンケートの結果など】
一般26名 看護学生69名 医師12名 合計107名のご参加をいただき、アンケートの結果は概ね好評でしたが、一部をご紹介します。
・会場に話を振ったり、質問にその場で答えてくれるのが良かった。
・家族は禁煙をサポートしたいが、本人がその気にならず困る。
・タバコをやめろという講演が多い中、脳に問題があるという理由がわかった。
次回のテーマについての提案もありました。
・次回は電子タバコの害の嘘と本当をテーマにして欲しい。
行政(市長への影響要望)への注文もありました。
・パチンコ協会、タクシー協会、飲食店組合に禁煙を啓発し、医師会任せでなく市長自ら無煙化に取り組んで、次回から出席して取り組みを発表して欲しい。
今後も改善を要すると思われる点、
・市民には少し難しい言葉と話であった。
・一般市民の参加が少なく、宣伝方法を考えて欲しい。
これらのご意見を参考に、更に良い禁煙フォーラムを目指し、知恵を絞りたいと思います。