第35回 尼崎市医師会“学術デー” (第619号令和3年7月1日)

第35回 尼崎市医師会“学術デー”      令和3年6月19日

 

テーマ:「明日からの日常診療に役立つアンチエイジング最先端」

 

生涯教育担当理事 夏秋 恵

 

緊急事態宣言が発令中の6月19日(土)、理事会室と演者の先生方(京都、東京、大阪)の大学を結んでWEB配信「第35回 尼崎市医師会“学術デー”」を開催することが出来ました。
昨年の学術デーはコロナ禍がはじまってすぐ、WEB配信という方法があることを知らず中止を余儀なくされました。是非とも聴講したいテーマであったので、講師の先生方にすぐ連絡し1年後のご講演を承諾頂きました。「来年はコロナも収まって、ハーティホールで通常開催ができる」と思っていましたが、コロナは手強く、学術デー初のWEB開催となりました。座長、演者を含めWEB参加86名とハーティホール視聴参加5名、合わせて91名の先生方にご参加頂きました。
各講演内容は、当日の座長を務めて頂いた日下先生(内藤先生担当)、原田先生(堀江先生担当)、勝谷先生(森下先生担当)にこの後、報告していただきます。
来年の学術デー、このような企画をして欲しいというご要望がございましたら、医師会館までお知らせ下さい。最後になりましたが、この学術デー開催に際してお力添え頂いた先生方、特に、講師の先生方に直接連絡をとってコーディネートして下さった勝谷先生、準備に尽力して下さった事務局の皆様、本当に有り難うございました。
この場を借りて御礼申し上げます。

 
『日本人の腸内細菌叢解析からみえてきたアンチエイジングの秘密』
京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座(寄附講座)教授 内藤 裕二 先生
座長:日下 泰徳
腸内細菌叢については、看護学校で病理を教えるため少しは調べてはいました。
京都府立医科大学 内藤裕二教授はこの分野の第一人者でかなり難しい話になると思っておりました。ところが、かなりわかりやすく要点をかいつまんでお話しいただきましたため、基礎知識をそんなにない状況でも分かり易く聴くことができました。
最近のゲノム解析技術はかなり進歩を見せており詳しい解析からどんどん新しい知見が見つかる状況だとわかりました。培養技術を考えても、私が研究していたころはコンタミネーションだらけで大変でした。それが細かく分離培養できるだけでも素晴らしいと思いました。
腸内細菌の中でもヘリコバクターピロリは胃癌発生にかかわること以外個別にはわからない状況であること、食物繊維が豊富にあると、そこからは酪酸酸性菌の活躍が見られ、免疫力の増強につながることなどうかがいました。
パプアニューギニアでは、芋しかとらないのに、筋骨隆々であり、腸内細菌が芋からアミノ酸を生成することができるからだとわかり、腸内細菌叢の力は凄いと思うことしきりです。
京丹後市の調査では驚くほどの元気な長寿社会が構成されており、食物繊維が豊富と説明を受けると、なるほどと思いました。
ちなみに京都府立医科大学北部医療センターは、一宮元伊勢 籠神社に向かう途中に見かけました。宮津あたりは神秘を感じていましたが、このような話があるのかとあらためて驚いた次第です。
大変印象に残るお話をいただき、内藤先生にはあらためて御礼申し上げます。

 
『最先端のメンズヘルス』
順天堂大学大学院医学系研究科 泌尿器外科学教授 堀江 重郎 先生
座長:原田 健次
堀江先生には、主にメンズヘルス、アンチエイジングに重要な役割を果たすテストステロンについてご講演頂いた。
男性にも女性と同じ様に更年期障害があり、テストステロンの減少が主な原因であることがわかってきている。テストステロンは、筋肉量・骨量の増加、性機能の改善に加え、耐糖能、認知機能への関与が示唆され、様々なアンチエイジングに寄与していることが明らかになってきている。さらにフリーテストステロンが高値の場合、インフルエンザワクチンの効果が高いとのデータもある。
フリーテストステロン8.5(7.5)pg/ml以下はLOH症候群と定義され積極的なテストステロンの補充療法が推奨されている。
我々泌尿器科医も以前はテストステロンを補充すると、内因性のテストステロンの産生が低下することと、前立腺癌発症のリスクを増大させる可能性があると考えられ、テストステロンの補充療法をためらっていた時期もあった。
ただ現在では、テストステロンの補充が前立腺癌発症のリスクとは関係が無いとのエビデンスがある。
現在使用出来る治療薬は注射薬のみでエナルモンデポ125mg or 250mg を2週ないし4週に1度筋注する。(LOH症候群では保険適応ではないので性腺機能低下症の病名が必要)
アンチエイジングの予防として①適当な有酸素運動②適量のワイン③PDE5阻害薬(バイアグラ、シアリス等)④テストステロンの補充⑤Happyな精神状態の維持が推奨される。

 
『脳心血管でのアンチエイジング最前線:2025大阪・関西万博に向けて』
大阪大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座 教授 森下 竜一 先生
座長:勝谷 友宏
森下先生と私は大阪大学の老年医学教室の同門、現在も数々の仕事を一緒にさせて頂いている仲である。わが国の健康寿命を2年延ばすことを国が目標に掲げる中、高齢者の定義を現在の65歳から75歳に変えるようなアンチエイジングの考え方は重要である。閉塞性動脈硬化症に対する世界初の遺伝子治療薬であるコラテジェン®(ヒト肝細胞増殖因子(HGF)を発現するプラスミドDNAを主成分とする再生医療用等製剤、田辺三菱より発売)を大学発ベンチャー(アンジェス)を立ち上げるところから出発して2019年の上梓にまでこぎつけた森下教授は、新型コロナウイルスに対するDNAワクチンの開発や針を使わない(微小な火薬を使用)注射器の開発などについても進捗状況の報告を行った。コロナ感染予防の観点からも、免疫を上げる機能性食品も注目されるが、CoQ10やプラズマ乳酸菌など、特定保健食品(いわゆるトクホ)でカバー出来ない食品が機能性表示食品として世の中に出てくる過程についても解説が加えられた。機能性表示食品の中には、内臓脂肪を減らすリンゴ、中性脂肪を減らすカンパチ、といった生鮮食品も含まれ、血圧低下、骨の強化、肌の潤い増強など複数の機能性表示を持つ食品も販売されているとのことであった。さらに、認知症の早期発見・予防の観点から、MMSEや長谷川式よりも簡便で時短となる(わずか3分!)簡易認知機能評価法「見るだけ」(准教授の武田朱公先生が開発)の紹介も行われた。そして最後に、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに2025年4月13日~10月13日まで行われる大阪・関西万博の準備状況についても詳しい説明がなされた。大阪の夢洲で行われる万博には2,800万人が国内外から訪れると推定されているが、大阪府・大阪市のパビリオンの総合プロデューサーを森下先生が務めるということで、アンチエイジングライド(センサーを付けて乗ると個人の身体情報等に応じた内容が画面に映し出され10年若返りのための方策が学習出来るライド型体験施設)、個人の体質に応じた機能性表示食品のお試しコーナーなど体験型パビリオンの具体的な内容も示された。長年、内閣府の規制改革会議や健康医療戦略本部の戦略参与を務めてきた森下先生ならではの非常に幅広い話題満載の小一時間の講演であった。