「著書紹介」 (第622号令和3年10月1日)
2021/10/23(土)
―著書紹介―
「殿、恐れながらブラックでござる」
講談社時代小説文庫 谷口雅美著
武庫川地区 児玉 岳
時は江戸時代寛文年間、徳川幕府第4代将軍家綱の頃。大坂の落城から約50年が経ち戦国の時代を知る者は少なくなっている時世です。そして、町人の力が強まってはきているものの、まだ武断政治が続く時代です。巷には気の荒い牢人が溢れ、つまり「武士の雇用」という社会問題があった時代なのです。
江戸で武士の再就職を斡旋する稼業、いわばハローワークを営む戸ノ内兵庫というワケありらしい武士がいました。この戸ノ内兵庫、創作上の人物ですが、「戸ノ内」・「兵庫」ともに兵庫県、いや尼崎に関係する名前です。
さて、その尼崎ですが、尼崎城は西日本の要である大坂城の西の前衛であり、譜代大名が配される枢要の地でした。当時の領主は徳川将軍家の信頼あつい青山氏(譜代中の譜代、安祥七家のひとつ)。当主は、『名将言行録』にもその名が記載されるほどの一種の豪傑である青山幸利でした。
尼崎の領主・青山幸利が、新規採用の家臣を江戸で求めるところから物語は始まります。大坂城を守る大役を果たすためには、有能な家臣が多数必要だというわけです。しかし武断派・徳川家譜代で強引な傾向のある青山幸利は、いわゆる「脳筋」、今でならパワハラ上司で、藩士勤めはいわゆるブラック企業への就職でした。そんな尼崎藩へ、江戸のハローワーク・戸ノ内兵庫がスカウトした者たちを尼崎に引き連れて行き、尼崎藩家臣団として過ごしていく過程を多少コミカルに描いてゆきます。戸ノ内兵庫の「恐れながら申し上げます」がキーワード。ブラックでパワハラな殿様に御手討ちにされかねないところを躱し、なんとか軌道修正していく戸ノ内兵庫なのです。
「名将言行録」等に記された青山幸利の逸話を幾つか織り込み、尼崎の地でブラックでパワハラな社長をなんとか変えようとする「秘書」のような戸ノ内兵庫の姿に共感を覚えます。
ブラック企業尼崎藩・パワハラ藩主は変わるのか、そして、ある陰謀が起こりますが、その陰謀を阻止することはできるのか、物語は活劇を交え急展開していきます。
珍しく尼崎を舞台とする時代小説です。御典医なんかも出てきますので、中〇家のご先祖かな? いや、まだこの時代は御典医ではなかったか…。著者は、尼崎在住で、FMあまがさきの人気番組「8時だよ!神さま仏さま」のアシスタントも務められた谷口雅美さんです。「8時だよ!神さま仏さま」には僕も出演したことがあるので面識もあり、楽しく読ませてもらいました。