「令和3年度 尼崎市医師会 乳幼児保健講演会」 (第628号令和4年4月1日)
2022/05/17(火)
令和3年度 尼崎市医師会 乳幼児保健講演会 2・24
乳幼児保健委員会 委員長 古賀 亮一
尼崎市医師会乳幼児保健委員会活動の一部として尼崎市内の保育園、保育所、幼稚園等での子どもの健全育成の一助となるように毎年2月に開かれる乳幼児保健講演会が、2月24日(木)に開催されました。例年ハーティホールで開催されますが、昨年に引き続き本年もWEB開催となりました。
今回は長崎大学大学院医歯薬学総合研究科および熱帯医学・グローバルヘルス研究科教授森内浩幸先生に「コロナ禍のこどもたち」と題してご講演いただきました。
長崎出身の森内先生は日本小児科学会予防接種・感染症対策委員として新型コロナウイルスに関してTVをはじめ様々なところで発言されることも多く、時の人となられた感がありますが、長崎大学医学部卒業後同大小児科に入局され、トキソプラズマ、サイトメガロウイルス、HTLV等の母子感染症を専門にしておられます。現在のコロナウイルスに関するご発言に子どもに対する暖かいまなざしが感じられるのも親子に同時にかかわるこれまでの経験があればこそと思われます。それではご講演内容を紹介します。
かつて全てのヒトコロナウイルス(HCoV)は動物由来の新興ウイルスでありその分化は1200~1500年ごろまで辿ることができる。集団免疫がない社会にウイルスが持ち込まれると全年齢に感染が拡大し重症例は多く、高齢者の重症化が目立つ。一般的なウイルスでも2歳未満の小児では気管支肺胞が完成していないため呼吸不全に陥りやすく高齢者では免疫応答の低下と炎症反応の亢進による免疫老化のため重症化しやすいことは知られている。
現在までの新型コロナウイルスによる10代の致死率は0.001%、10歳未満では0である。しかし各国から死亡例の報告では先天性心疾患、慢性呼吸不全、肥満、重度の神経学的障害、ダウン症その他の染色体異常、免疫不全状態のほか重度の発達障害がみられる。これらのリスクを有する5~11歳の小児には予防接種が推奨される。一方、小児の重症化の頻度は国によって異なりベネフィット・リスクバランスは日米間で大きく異なるため健常児に対する予防接種の考え方は異なってよいと思われる。
ここで、改めて子どもにとっての新型コロナを他の呼吸器感染症やウイルス感染症と比べてみると(図-1:コロナより死亡例が多く危険なウイルスに着目してください)、インフルエンザウイルスやRSウイルスの方が危険といえる。インフルエンザは学校→家庭→社会へ広がることが多く学級閉鎖が有効であり、新型コロナは社会→家庭→学校のルートが多く学級閉鎖や子どもへのワクチンが流行を収束させる効果は期待薄と思われる。
現在行われている様々な予防策を検証するとマスクによる感情表現の学習阻害、学級閉鎖による学力経験不足や親の社会活動への負担等様々な問題が指摘される。
「副作用はワクチンや薬だけに起こるわけではありません。」マスクやソーシャルディスタンシングやイベント中止のような感染予防策によっても副作用は起こります。特に子どもたちは、その副作用が強く、長期間(一生?)影響を受けます(図2)(小児科学会 小児における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状と感染対策についての見解 2021年5月20日)。
オミクロン株に関して述べます。この株はワクチン接種率が低く、さらにエイズ患者の多い南アフリカで大量の感染症の発生と遷延する感染例が相まって数多くの変異を有するウイルスが生じたと思われる。世界のワクチンギャップがある限り、各地で同じことが起こり新型コロナの終焉は難しい!!
今オミクロン株で分かっていること、まだよく分からないこととしては
①感染力は拡大した?
→YES
②免疫逃避するようになった?
→YES しかしながら三回目の予防接種によってオミクロン株に対する中和活性は上昇しT細胞誘導は誘導されるため重症化阻止を目的とした接種を急ぐべき
③軽症化(弱毒化)した?
→YES(でもインフルエンザより強毒)これまで知られているウイルスで「弱毒化が進む方向に進化したウイルスはそんなに多くなくコロナウイルスでも弱毒化は期待薄。
またインフルエンザでは死亡例のほとんどが肺炎ではなく原疾患の悪化によるものであることから、今必要とされていることは
•重症化リスクのある人へのブースター接種。
•重症化リスクのある人が発症したら直ちに受診し検査を受け治療が開始される体制。
•流行のフェーズに応じた生活制限と隔離措置。
•変異株や全く別の新たなウイルスによる次のパンデミックへ備え。
である。
何はともあれ、疫学のみでなく教育経済等全てを含み、その場しのぎではない対応が必要とされると思います。
ご清聴ありがとうございました。(図3)
質疑応答
子どもに多いとされるオミクロン株でもクラスターを厳密に観察すると大人を起点にしていることが多いと思われるがいかが?
下気道への親和性が少ないとされるが、細胞への親和性の違いはどのように起こっており、アンギオテンシン受容体との親和性に変化はないのか?
潜伏期が短く感染力の強いオミクロン株への予防注射の効果の変動はインフルエンザのそれと似てきたのではないか?
との質問に、子どもたちへの感染が広がった子どもたちがかかりやすくなったわけではない。元来肺活量が少なくエアロゾル発生が少ないため起こりにくかった子どもたちの流行ではあるが、オミクロン株の感染力が子どもの特性を超えるほど強くなり流行が始まったと思う。気管に比し肺での増殖が少なくなったことが肺炎の減少等の病型の変化にかかわっていると思われるがこれとアンギオテンシン受容体への親和性の変化の関連はわかっていない。予防注射に関しては一般に潜伏期の短いウイルスほど発症予防効果が少ないがオミクロン株ではウイルスそのものの変異に加え潜伏期が短いことの影響がインフルエンザウイルスと似てきたといえる。しかし今でも重症化予防効果は期待できる。との返答が詳しい解説とともになされた。
会場からの子どもを預かる現場でも感染者は増えているが濃厚接触者の意味合いに分かりにくいところがある。定義とその検証について知りたいとの質問には現在の体制は感染者の封じ込めが必要だった時期から変わっていない。感染者が周りにいる今では過剰ともいえる。きちんと予防策をしたうえで隔離期間を短くすることは可能でぜひそうあるべきだと思うと答えられた。同じ質問者から現在元気な私は3回目の接種を高齢者に譲るべきかとの質問には子どもに直接かかわり、保育の現場で頑張っている皆様方にはできるだけ早く受けていただきたいと思うし、小児科学会も訴えていますと答えがあった。
発達障害児がハイリスクに入っているのはなぜかの問いに、その理由はわからないが単に感染しやすいだけではなく致死率が高いとの報告は事実で接種は大変であると思われるが子どものなれた環境で積極的に接種することが大切であるとの返答があった。
多職種が集まる本講演会の特徴に配慮いただき数多くのスライドを使用して繰り返し丁寧な説明をしてくださった森内浩幸先生、ありがとうございました。
また当日の質問を可能にしていただいた事務局に感謝いたします。