「第16回 尼崎市民医療フォーラム レポート」(第647号令和5年11月1日)

第16回 尼崎市民医療フォーラム レポート
令和5年10月21日(土)午後2時 於:尼崎市立小田南生涯学習プラザ

 
医政委員会委員 串田 剛俊

 
10月21日土曜日午後2時から第16回尼崎市民医療フォーラムが尼崎市立小田南生涯学習プラザで開催されました。今回は新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことに伴い現地開催となり、79名と多くの方がフォーラムに参加していただきました。今回のフォーラムのテーマは、「そうだったのか!日本の医療」〜かかりつけ医あれば憂いなし?〜でした。令和4年6月に政府の骨太の方針でかかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うと閣議決定されました。そこで、医政委員会としても市民の皆様と一緒に「かかりつけ医」について考えようという事になりました。フォーラムの司会進行は内藤彰彦氏(尼崎市医師会理事)が務め、杉原加壽子氏(尼崎市医師会会長)から開会の挨拶として、医療行政だけではなく、地域に根ざした「かかりつけ医」について、市民の方々と一緒に考えていきたいというお話をいだだきました。続いて、御来賓の挨拶として吹野順次氏(尼崎副市長)より松本眞氏(尼崎市長)のメッセージが代読され、尼崎市民のために医療や介護などの密な連携を行い、これからも重層的な地域医療を尼崎市医師会とともに行っていきたいとお話をいただきました。次に、八田昌樹氏(兵庫県医師会会長)から、「かかりつけ医」はもやもやとしてわかりにくいと思いますが、今回のシンポジウムで分かりやすくなると思います。また、日本にはフリーアクセスという素晴らしい制度があるので、一緒に議論していきたいですというお話がありました。
第1部の前に、尼崎市民フォーラムの恒例となりました浪漫亭不良雲氏による社会人落語を披露していただきました。自分の事を相手によく知ってもらっておくという内容で、飲み屋での親子の会話の小噺と、駅の忘れ物センターでの出来事の小噺で、会場内が大いに和みました。
次に、第1部の基調講演として、黒瀬巌氏(日本医師会常任理事)より、「かかりつけ医は皆様の健康づくりパートナー」〜かかりつけ医〝機能〟ってなあに?〜というテーマでお話をしていただきました。まず最初に、「かかりつけ医」の定義と役割についてお話をされました。日医・四病協合同提言の中では、なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師となっています。これをかみ砕いて言うと、健康に関することを何でも相談できる、必要な時には専門の医師や医療機関を紹介してもらえる、身近で頼りになる医師という事です。「かかりつけ医」の仕事は診療や予防、往診、在宅医療だけではありません。その他に学校医や産業医、地域行事の救護班、災害現場での活動など様々な活動があります。日本医師会では「かかりつけ医」が地域住民から信頼されるために知識などを向上することを目指して、基本研修、応用研修、実地研修などを行っていますという内容でした。
次に、日本の優れた医療制度には国民皆保険の他に、フリーアクセスがある事をお話されました。フリーアクセスとは、患者さん自らが医療機関を選べる事です。イギリスの医療は地域の家庭に登録し、最初は原則家庭医で受けることになります。そして、家庭医の紹介がなければ、専門医や病院にかかれないシステムです。日本の医療はフリーアクセスが可能であり、新型コロナウイス陽性者の致死率がG7各国と比較すると、日本は致死率を低く抑える事ができたとの事です。
最後に「かかりつけ医」の選び方についてお話されました。患者さん自身が求める保険・医療・在宅サービス・自分の年齢・体質・持病に合わせて選ぶことが必要です。「かかりつけ医」は1人に限る必要はありません。若いときは医者にかからないとか、「かかりつけ医」は不要と思うかもしれませんが、いざというときに、何でも相談できる医師がいることが大切です。「かかりつけ医」はどの診療科でも自分が信頼できる医師であれば、問題ありません。友人や親戚などの意見の他、尼崎市医師会や行政などの医療情報システムも活用して、是非、自分にあった「かかりつけ医」を見つけてくださいというお話でした。以上のように、「かかりつけ医」の定義と仕事内容から始まり、「かかりつけ医」を活用しやすいようにするフリーアクセスの利点、「かかりつけ医」の探し方を分かりやすく講演していただきました。
第2部の演劇の舞台設定の間に中野洋昌氏(衆議院議員)から、来賓の御挨拶をいただきました。これから訪れる少子高齢化や医療費の増大などの「2030年問題」に対して、行政としても尼崎市民の皆様が安心して医療を受けることができる制度を尼崎市医師会と協力して作っていきたいというお話でした。第2部は兵庫県立尼崎小田高等学校看護医療・健康類型の皆さんによる演劇がありました。タイトルは「郷に入れば郷に従わ、ないといけない?」〜世界の医療は十人十色〜でした。ヨーロッパに転勤になった家族が、腹痛で医療機関を受診しなければならなくなった状況と並行して、日本での医療機関の違いを分かりやすく演じてもらいました。ヨーロッパの医療制度(イギリス)では、まず初めに家庭医を受診する必要があり、専門医を直接受診することができません。一方、日本では国民皆保険とフリーアクセス制度のおかげで、患者さんは必要なときに専門的な治療を受けることができるという内容の演劇でした。
第3部のシンポジウムは杉安保宜氏(尼崎市医師会理事)、鷲田和夫氏(尼崎市医師会理事)の司会で始まりました。シンポジストに黒瀬巌氏(日本医師会常任理事)、八田昌樹氏(兵庫県医師会会長)、中野洋昌氏(衆議院議員)、福田秀志氏(兵庫県尼崎小田高等学校教諭)、武部健氏(尼崎市医師会医政委員会委員長)を迎え、3つのテーマに分けて討論していきました。まず、第1のテーマの「かかりつけ医とかかりつけ医機能について」を議論しました。始めに、患者さんの立場から福田氏の意見が述べられました。患者の立場で考えると、「かかりつけ医」を選ぶ要因として、医者の腕よりも近所にあるクリニックであることが大きい。また、患者さんの方がこの医者を「かかりつけ医」として考えていても、医者の方が自分を「かかりつけの患者さん」として考えてくれているかは分からないと意見がありました。この意見に対して、八田氏より、「かかりつけ医」はあくまでも患者さんが決めるもので、「かかりつけ医」は決して一人でなくてもよい。これからの、かかりつけ医制度の方向性として、医療側が自分のところは往診、介護、訪問診療、専門医への紹介など、何ができるかを報告することになっていると述べられました。次に、武部氏からは、様々な医療機関や医療施設が協力して「面で支える」かかりつけ医制度がいいと考えていると述べられました。「面で支える」かかりつけ医制度の一つに尼崎市医師会で運用している「あまつなぎ」もあり、「かかりつけ医」を探すときには利用してほしいとのことです。中野氏からはすべての患者さんが基幹病院にいくと、手術や検査など本来必要な治療が必要な患者さんが診られなくなるので、まずは地域の「かかりつけ医」に相談してほしいと述べられました。そして、患者さんが分かりやすい制度を行政として作っていきたいと述べられました。黒瀬氏からも、かかりつけ医制度として、全国的に医師側から、「かかりつけ医」として何ができるかなどを報告する制度をつくるようにする。これは再来年から開始できるようにしていきたいと述べられました。
第2のテーマとして、「かかりつけ医」を中心とした「切れ目のない医療提供」について議論を行いました。まず、福田氏が高校生に「かかりつけ医」についてどのように考えているかのアンケート結果を報告していただきました。高校生の「かかりつけ医」のイメージとして、健康相談ができる、もしもの時に身近に頼れる、信頼関係がある、専門医を紹介してくれるなどがあり、自分の「かかりつけ医」を持っていると回答した生徒は約50%だったと述べられました。次に八田氏から、多くの高齢者は「かかりつけ医」を持っていると考えている。一方、若い人は普段医療機関にかかっていないので、急変した時はどこの診療所に行ったら良いか分からないと思う。かかりつけ医制度を通じて、分かりやすくしたいと考えていると述べられました。中野氏からは、行政は2030年問題である少子高齢化をみつめて議論している。市民や患者さんの目線から考えて、信頼ができ、相談ができる医師を見つけられる制度を作っていきたいと述べられました。最後に杉安氏より、ライフスタイルに合わせて、一人の医師が一生みるのではなく、小児科、内科、整形外科など年齢や世代に合わせて診療科をリレーしていく制度がいいと述べられました。
第3のテーマとして、日本の医療制度(国民皆保険制度・フリーアクセス下)の中での「かかりつけ医」の意義について議論していただきました。福田氏より、どこの診療科にかかっていいかわからないので、そういう時に受診できる総合診療科をもっと増やしてほしいと述べられました。中野氏から、行政としては、どの医師が何ができるかよく分からないので、新しい制度ではそこを見えるようにしたい。医師会や尼崎市と協力して、新しい体制を作っていきたいと述べられました。黒瀬氏から、医師は研修で内科、外科など様々な診療科で研修しているし、その後も常に自己研鑽もしている。何かわからないことがあれば、「かかりつけ医」に相談してほしいと述べられました。最後に、武部氏から、頼れる「かかりつけ医」になるため、自己研鑽し、自分が診察できる範囲を増やしていく必要があると述べられました。以上により第3部のシンポジウムは終了しました。
閉会の挨拶として、中川勝氏(尼崎市医師会副会長)より、患者さんが「かかりつけ医」をどのようにして見つければいいのか分からなければ尼崎市医師会に相談してほしいと述べられ、第16回尼崎市民フォーラムは閉会しました。
今回のフォーラムで「かかりつけ医とかかりつけ医制度」について様々な職種の方々からお話をいただき、患者さんから求められている「かかりつけ医」について、大変勉強になりました。今後始まる「かかりつけ医制度」に対して、これまで私たちが培ってきた国民皆保険とフリーアクセスの長所を維持するためにも、我々医師一人一人が患者さんに対して何ができるのかを分かりやすく提示し、どの年代の方にも安心できる医療を提供できるようにしていく必要があると考えられました。