「健康スポーツ医学再研修会 報告」(第656号令和6年8月1日)

報告 「健康スポーツ医学再研修会」
令和6年7月20日(土)14:00~16:00  於:ハーティホール
健康スポーツ医学委員会担当理事 木村 琢也

 
「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023の概要と活用」
早稲田大学 スポーツ科学学術院 スポーツ科学部 教授 宮地元彦先生

演者による講演要旨
【厚生労働省は2024年4月に、次期国民健康づくりプランとして健康日本21(第3次)をスタートさせた。身体活動・運動分野においては、厚生労働科学研究班(澤田班)が「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)の改定のためのエビデンスやファクトを整理し、厚生労働省内に設置した検討会で多方面からの検討が行われ、2024年1月に新しい「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が公表された。身体活動・運動ガイド2023は今後の地域や職域での公衆衛生のみならず、慢性疾患などの臨床の場においても活用されることが期待されている。
本講演では身体活動・運動ガイド2023の策定根拠となったエビデンスやファクトの概要に加え身体活動・運動ガイド2023の活用法について紹介させていただき、聴衆の皆様と身体活動・運動ガイド2023について議論する機会としたい。】

僭越ながら講演の内容についてもう少し具体的な説明をいたします。
そもそも身体活動とは・・・人が体を動かすことを総じて身体活動といいます。(数値で表すなら1.5METS以上の活動です。安静座位は1METSです。)この身体活動の低下、すなわち運動不足は日本人の死亡リスクの第3位に位置づけられています。
日本では運動量を歩数で評価・指導する習慣がありますが、そもそも歩数計とは日本で作られ、歩数とは日本で作られた言語のようです。過去30年で65歳以上の人の歩数は減少傾向にあり、2000年に第1次“健康日本21”プログラムが開始され、エビデンスに基づき2006年にエクササイズガイドが設けられました。もともと1993年の健康づくりのための運動指針では30分の歩行(ウォーキングは約3METS)推奨からスタートしました。そして2006年には一般の人なら歩数で8,000歩以上を目標に、週合計60分の汗をかく程度の筋力トレーニング、メタボの人は3,000歩多く歩くことが推奨されました。その後「健康づくりのための身体活動基準2013」では6,000件を超えるレビューのメタ解析を行った結果、65歳未満は60分以上、65歳以上に関しては身体活動を1日40分以上とし、また全世代に対して今までより毎日10分以上長く歩くこと、「30分から60分の軽い運動を週に3回以上」を推奨されました。これを“プラス10”運動として広く指導してきました。もともと運動習慣のない人では非常に効果的で死亡・疾患リスクが明らかに低下することが示されています。(但し10,000歩以上の効果はプラトーです。)
現在、身体活動基準2023年への改訂のための研究が実施されています。具体的には①座位行動に対する基準・考え方、②プラス10は続行、③筋トレについて、④疾患を有する人、高齢者、障害者、妊産婦などのすべての人に適した活動基準を提示、⑤わかりやすく印象に残るメッセージの提示、です。
日本人は世界で最も歩いていますが最も座っている国民です。8時間以上座っていると死亡率が上がります。筋トレは今、若い人の間でもボディメーキングとして流行っていますが、中高年では200分以上追い込むと死亡リスクも上がって危険です。週に60分以内の筋トレとして、筋トレが出来ない人は日常生活のなかでスクワット、腕立て、軽い腹筋などしてください。
日本ではMETSを使用しての運動強度や必要な持久力を数値化してきた歴史があり、各世代にわたりより多くの人にきめ細かいアクティブガイドが可能となるように準備を進めています。身体活動・スポーツの奨励が健康維持だけでなく、ウェルビーイングの向上、SDGs達成と言った新たな目的も視野に入れて研究を進めています。
市内19名、市外30名の参加をいただきました。ありがとうございました。