平成27年度 全校医会に参加して(第556号 平成28年4月1日)

(第556号 平成28年4月1日)
学校保健担当理事 中川  勝

平成28年3月10日木曜日にハーティ21、ハーティホールで平成27年度全校医会が開催された。今年の特別講演は平成28年度から新しく始まる学校での運動器検診についての講習会ということになり、幼稚園、小学校、中学校、市立高校の主任校医や養護教諭・学校関係者も含め146名の参加があり大変盛況であった。特に主任校医の方々にはインフルエンザの流行中であることで大変多忙な中、参加して頂き、改めて御礼を申し上げます。
全校医会は例年通り黒田会長の挨拶から始まり、学校保健担当理事の中川から尼崎市学校保健会報告、学校保健関係表彰、松山で行われた第46回全国学校保健・学校医大会報告、大阪での第64回近畿医師会連合学校医研究協議会総会報告、平成27年度兵庫県医師会学校医研修会・学校医実務研修会、平成27年度日本医師会「学校医講習会」についての報告がなされた。その内容はいずれも来年度から始まる運動器検診についての話題がかなりの割合を占めており、他にアレルギー、肥満とやせなどが話題となっていた。その中で興味深かったのは中学生に対する将来の胃がん予防のためのピロリ菌健診が開始されつつあることと、学校医実務者研修会で講演された大阪府医師会武本理事の運動器検診の法制化に関して「地域の実情に応じて」という一文を加える交渉や、当初日本医師会と文科省との間の交渉が口約束に近く、さらに何ら予算措置が講じられなかったと言うことに興味を惹かれた。それから協力校医(B)の活動報告、児童生徒数減少に伴う学校の統廃合に伴う学校医担当を報告した。続いて心疾患対策委員会、腎疾患対策委員会、結核検診、脊柱側湾症検診について各委員長から報告があった。
最後に田中尚子先生の司会で学校での本日のメインテーマの運動器検診についての講習会が行われ、具体的内容は2面以降に掲載する。

新しく始まる学校での運動器検診について

まず行政の方から尼崎市教育委員会学校保健課長 田岡清氏が「運動器検診について」という題で学校保健安全法施行規則の一部改正で座高、寄生虫卵の有無が必須項目から削除され、代わりに「四肢の状態」(運動器検診)が必須項目として追加されたこと、その対象は幼稚園、小学校、中学校、高等学校であること、その手順は図1(2面参照)のように、あらかじめ各家庭に図2(2面参照)の運動器検診・保健調査票を配布し、家庭での様子を記入してもらうこと、その情報に基づき学校は各担任、養護教諭、クラブの顧問が日常生活や体育・部活動の活動の様子を加味し、調査票にチェックがついている者や学校での観察で運動器の状態に問題があると判断される者について内科検診の中で学校医が検診し、調査票担当医チェック欄に専門医受診、経過観察、管理不要のいずれかを記入するように決まりました。但し脊柱側湾の検診項目の1)に関しては調査票の異常の有無にかかわらず検診する必要があります。本来はこの検診は全学年で行うべきものですが、初年度に限り検診異常率や検診時間等のデータ収集の目的のため、各学校で対象学年を調整の上実施することになりました。
2番目には「尼崎市での運動器検診の実際について」を尼崎市医師会学校保健委員会副委員長の青木康夫先生が講演されました。講演は家庭・学校で記載された調査票の異常項目について図3(2面参照)のような具体的な検診異常例を示し、各検診項目の異常で疑われる疾患や、医療機関への要受診と経過観察の線引きの基準を示されました。しかしいずれにしても学業を行うのに差し支えがあるような疾病・異常が疑われる場合は整形外科専門医を受診させる必要があると説明されました。また運動器検診・保健調査票の記載に関しては低年齢の幼稚園児、小学校低学年児童ではこの動作がすぐにできない可能性があり学校や家庭でのJCOA版アニメ運動器検診マニュアルビデオ
(http://www.youtube.com/watch?v=mek-XLUjK2A)を見せて練習する必要性を説明されました。(図4)
最後に「こどものロコモと運動器検診」という演題で日本臨床整形外科学会理事、兵庫県医師会理事、医療法人社団慶仁会山下整形外科院長の山下仁司先生が特別講演を行われました。その内容はこどもロコモ対策は高齢者のロコモティブシンドロームを予防する目的で全年齢層に「運動習慣をつける」ための「行動変容を起こす」ことであると言われました。最近姿勢の悪いこどもが多くなっていますが、バランス能力の低下、筋力の低下、骨関節の病気がその要因であり、前2者は生活習慣の劣化による運動器機能不全が原因となり、後者はスポーツのやり過ぎにより起こり、これがこどもロコモを引き起こす。その対策として学校運動器検診を行うこと、運動・食事などの生活習慣の改善により、最終的に高齢者のロコモ・メタボ・認知症予防につながるという大きな流れを説明されました。次に今回の運動器検診を行うようになった経緯を説明され、実際の兵庫県方式の運動器検診に関しても説明されました。尼崎市の運動器検診もこれに準じています。先生の所属する加古川市では昭和57年頃から脊柱検診に加え運動器検診を加えるべく協議を行い、調査票を使用した運動器検診を全国に先駆けて開始していたことを発表されました。
全ての講師の発表が終わった後、講師全員でフロアからの質問に丁寧に回答して頂き、今後の尼崎市の運動器検診に非常に有意義な講習会を終えました。